ボイストレーニングを始めようとする人々の理由は、本当に様々だと思います。
カラオケで友達をあっと言わせたい人、
普段の話し声を良くして、スピーチに説得力を持たせたい人、
そして、プロのシンガーになるべく、デビューを目指している人。
そんな中で本日は、
「プロシンガーになるべく、デビューを目指している人」
の悩みについて取り上げてみようかと思います。
音楽業界自体が多様化してきている昨今、
「どうすればデビュー出来るのか」ということも多様化して来ました。
10数年程前であれば、
歌の実力がある人たちは、大抵デビュー出来ていたように思います。
実力のある歌い手を探しているスカウトが、東京だけでなく大阪にもいましたし、
「あそこに行けばスカウトされる」
というようなものがありました。
今はどうでしょうか。
私自身、音楽イベントを企画・主催していますし、外部のイベントに出演する機会も多くありますので、
沢山のバンド、ユニット、シンガーソングライターの方々とステージを同じくします。
その中にも、本当に沢山の「歌の上手なシンガー」の方々がいます。
そういう人たちが、ごまんと埋もれてしまっている。
それは一つには、発信者と受信者の境目が少なくなったことも理由にあるかと思います。
「演奏する側」と「演奏を聴く側」。
昔は発信者と受信者が、明確に分かれていました。
今はその境目がとても小さくなっている。
無いに等しいのかもしれません。
ブログやfacebookなどのSNS、
Youtubeなどの動画配信サイトを通じて、
今は誰もが気軽に発信側になれるからです。
そういった、誰もが「発信出来る」中で、自分をプロたらしめるものは何なのか。
そこにデビューのカギがあります。
一つめは、それでもやはり歌の実力です。
“「歌の上手なシンガー」が、ごまんと埋もれてしまっている”、と書きました。
確かにその現状はあります。
ですが、更に歌の実力をつけ、その実力を音楽活動の現場で磨き抜くこと。
これはプロになるための大原則であり、最低条件です。
歌の上手なシンガーが「ごまんといる」のならば、
そこから頭一つ飛び出る実力をつけることです。
そして、これは私がボイストレーナーだから言うのではありません。
ですが歌の上達には、やはりトレーナーの存在がかかせないのです。
そこなくしては、たとえ天性のものがあったとしても、いつか必ず行き詰ってしまいます。
それは、歌が自分自身の身体を楽器として奏でるものだからです。
自分自身で「自分という楽器」を客観視することが、大変難しいことだからです。
詳しくお話しましょう。
「自分の声を録音して聴くと、まるで別人みたい」
という経験をしたことはありませんか?
その理由は、外の音と中の音の違いにあります。
声というものは、身体の中で生まれ、自分自身の細胞を通して外に響きます。
自分に聞こえる「自分の声」は自分の中で響いているものであり、
身体の外側で鳴っている「自分以外の第三者に聞こえる自分の声」は、
また全く別のものなのです。
どういう口の開け方で、どこの筋肉をつかって、
どういった表情で、どんな姿勢で声を出しているから、今のその声が出ているのか。
これは第三者でなければ的確に判断することが出来ません。
…それならば、自分を客観視するために、
ビデオカメラで自分を撮影して練習してはどうでしょうか?
結論から言いますと、これは練習方法としては大変有効です。
ですが、それでもまだ足りません。
それは、私たち人間に感情があるからです。
楽な方へ、気持ちの良い方へ、という感情は、
人間誰しも持っているものです。
気持ち良く歌おうとする。
自分の好きな声の出し方をしようとする。
これを少しでもした時点で、
「客観視」の観点からは外れてしまいます。
感情=主観が入ってしまった時点で、
自分で自分を的確に指導することが出来なくなるのです。
自分に合ったトレーナーを探し、その指導の元でトレーニングをして、
確固たる歌の実力をつけること。
ライブ等の音楽活動を通して、現場の空気の中でその実力を更に磨いて行くこと。
当たり前の様ですが、それがプロを目指す上での、最も大切な一つ目の柱なのです。
次回は、
「プロデビューを果たすために必要な2つのこと 後編」
をお届け致します。